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スタジオ・レイからの最新情報のコーナーです。

加瀬をはじめ、講師・スタッフたちの日常のコラムや旅行記なども載せていきます。以前に掲載したコラムなどはクリッピングでご覧ください。

● 三人の素敵な人達

2012年7月31日

お盆も近くなってきたせいか、亡くなった方々が頭をよぎります。
大袈裟ですが、私の人生に多大な影響を与えてくれた、三人の方のお話をさせてください。
民族音楽学者の小泉文夫先生(1983年56歳没)、音楽評論家の吉田秀和先生(2012年98歳没)、そして、役者の緒形拳さん(2008年71歳没)。

小泉文夫先生を初めて知ったのは、子供の頃のいつだったか、テレビの音楽番組です。
民族音楽の研究をなさっていた先生は、ある民族のコーラスの録音を流し、「このハーモニーは合っていると思いますか? こちらはどうですか?」と、視聴者に語りかけます。そのコーラスは、ある少数民族が闘いに行くときに、皆の気持ちが一致しているかを計るためのもので、ハーモニーが一致していなければ闘いに行かないというのです。私には自信のあったはずのこの耳でも、どちらのハーモニーが合っているか分りません。正解をその後仰るのですが、やはり私には分りません。私は何て耳が良くないのだろうと、自分が少しでも耳が良いなどと奢った気持ちを持ったことに、非常に恥じ入りました。
その後知ったのですが、そこで生活をし同じ食事をして初めて音楽も理解できるからと、先生はどの民族に取材に行っても、民族音楽を知るために、仲間に入れて貰えるまで寝食を共にしたそうです。一つの音を理解するためには時間をかけ身体も心も同じ次元に持っていこうとし、しかもそこで研究をして私達に届くようにしてくださった先生を、お会いすることはなかった私ですが、ずーっと私の先生だと思っています。

吉田秀和先生は大人になってから新聞(音楽展望)などの評論で知りました。私の音楽の始まりはご多分に漏れず、クラシックのピアノです。ただ、小学校高学年になってくると、私の嗜好はクラシックからフォークやポップス、ロック、弾き語りへと移っていきます。そしてどんどんクラシックから離れていったのです。
しかし吉田先生の評論は決してクラシックには留まらないのです。クラシックの評論を通して「教える」ということの言葉の難しさや大切さを私に教えてくださいました。自分の意見を決して曲げず、しかも相手を傷つけず、包容力のある言葉。音楽からの角度だけではなく、あらゆる角度から、あらゆる知識や情景からの言葉。先生の言葉は音を想像させるだけではなく、景色や匂いなどの感覚を呼び起こさせます。足下にも及びませんが吉田先生のような言葉で皆に伝えられたらと常々思っています。ほど遠いですが。

最後に緒形拳さんです。今思えば、音楽と芝居しか考えないで生きてきた私ですが、音楽は、物心ついた頃にはピアノを弾き、絶対音がありました。音楽は生きるということと一緒なので、意識して音楽を求めたことなど一度もありません。でも、芝居は違いました。1966年NHKの大河ドラマ「源義経」の緒形さんの弁慶の立ち往生を観て初めてそう思ったのです。あの緒形さんの演技に11歳だった私は、人を守るということは何と貴く美しいものだと思い、そして約束を守ることの大事さや、人を何があっても裏切らない、自分が決めた事は最後の最後までまで貫き通す、それらを学んだのです。こんな子供の私の心をそれだけ動かすことのできる芝居というものはすごい。そしてそのときから、自分が少しでも芝居に関われるようになれたらと思うようになったのです。私はこの時の思いを貫き、現在に至っているのです。
緒形さんは、1995年の舞台『リチャード三世』のリチャードを演じるために、初めて私のレッスンを受けにいらっしゃいました。あのあこがれた役者を私が教えている。本当に喜ばしいことでした。それ以来亡くなるまでの13年間、本当の最後の最後までお付き合いさせていただきました。私が初めて出会った最高の役者にここまで関われた事を心から嬉しく思います。緒形さんは私に沢山のものを残してくださいました。そして、これからも私は人に教えていくことで、緒形さんが残してくれた財産を生かしていこうと思っています。

ということで、『ヴォイステクニックの真実』の実践編を書き始めました。
これまでに教えてきたことを具体的にまとめた、加瀬メソッドの辞書のようなものを作ろうと思っています。実際に皆さんが困った事を解決する糸口にしてもらえるような本にしたいと思っています。

<加瀬玲子>

※ これは2012年のトピックです。終了した内容やリンク切れの場合はご容赦ください。



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