早瀬一洋先生
6月28日の朝日新聞の朝刊に久しぶりに吉田秀和先生の「音楽展望」が掲載されていました。
吉田先生のお言葉は、いつも私の心に響きます。この記事に書かれている「フェリシティ・ロット」という歌手の素晴らしさはクラシックに無知な私にも伝わってくる文章なのですが、その中に、
これほどの世界的な名歌手でも、生まれ故郷の水に洗われた歌を歌う時は心底気安く、また快くて、しかも心の深いところから湧き出てくるものに乗って歌えるものか、と思った
とありましたが、まさにこの言葉通りの歌手が日本のテノール歌手にいたことを皆さんに伝えたくなりました。
それは、昨年他界された早瀬一洋先生です。
初めて早瀬先生の日本歌曲を聴いたとき、日本にこれだけの心と表現力を持った素晴らしい歌手がいたのだと大変感動したのを今でも克明に思い出します。日本歌曲を聴くことは私には数少ない経験ではありますが、早瀬先生の歌は、日本語が日本語として生きていて、歌い手の心の動きがストレートに私の心に届いてきたのです。もう、聴いていて涙が止まりません。完全に早瀬ワールドに引き込まれてしまったのです。
きれいに朗々と歌う日本歌曲に違和感のあった私は、お会いできた折にそのことをお話ししましたら、「私達は日本人です。日本語は大事に、そして歌は楽しく」と仰っていました。
残念ながら、生で早瀬先生の歌を聴くことはもうできません。でもCDを聴くだけで今でもこの素晴らしい歌は私の胸に届きます。どうか、世の中の歌手の皆さん。早瀬先生のように、心の優しさをずーっと持ち続けて、その心が聴衆にまで届くような歌を歌い続けていってください。
早瀬先生、素敵な歌をありがとうございました。
追伸:
早瀬先生のCDはamazon等では購入できないそうです。多くの方に聴いていただけるよい方法はないものでしょうか。
<2011年7月1日 加瀬玲子>
これは2011年のクリップです。終了した内容やリンク切れの場合はご容赦ください。