3年目加瀬グループ芝居発表
8月2日に、3年目加瀬グループによる岸田國士作『雪だるまの幻想』の芝居の発表を、スタジオ・レイの稽古場で行いました。3年目加瀬グループとは、2012年ベーシッククラスがそのまま3年目に入ったクラスです。メンバーは数人の役者以外に、歌手、ナレーター、ピアニスト、主婦などいろいろな職種が集まっています。
観客は生徒の事務所の社長やマネージャー、芝居仲間、友人、家族たち約30人。暖かく見守ってくださり、ありがとうございました。
一つの作品を形にするには、沢山のことを皆で考え、話し合い、稽古をして作り上げなければなりません。本来なら1ヵ月なり2ヵ月なり毎日のように稽古を積み上げて行くところを、たった月3回のレッスンの中の、しかも1回あたり小一時間の稽古での積み上げ作業でした。最初に皆に台本を配って戯曲を読む稽古の教材にしたのが昨年の6月と7月、その後これを上演しようと決めて芝居の稽古に入ったのが今年の初めです。約一年もかけて短い稽古を重ねたのですから、集中力を持続しなければならなかったのは皆大変だったと思います(さすがに最後の二回の稽古は丸一日稽古でしたが)。
さて、今回の稽古で皆に伝えたことです。
戯曲選び
稽古のための戯曲選び
- 何を稽古したいか。
- 足りないところを克服する。
- 外でやれない役に挑戦する。
- 次にやる役に向けて似たような役をやる。
「身の丈に合う合わない」を考えすぎない
- 稽古は発見すること。
- いろんな戯曲・役を試してみる。
翻訳劇の場合
- 翻訳者を選ぶ(訳によってセリフの構成の仕方、リズム感が全く違う)。
「様々な制約があったとしても、何か自分に引っかかる、面白がれる戯曲を選ぶこと」
(結局は加瀬が上演時間と出演者の数などを考えて『雪だるまの幻想』に決めました)
戯曲を読む
素読み
- 客観的に読む。何を言いたいのか、何が面白いのか。
- 役を与えられていたら、先ずは自分の役では決して読まないこと。
- 全体の中でそれぞれの役の位置を把握する。
全体の構成の把握
- 幕→場→シーン→セリフと細かく読み解いていく。
- 情景・イメージを思い浮かべられるように読む。
- 時間の経過を読む。
- 実質的な時間と心の時間、 二次元ではなく三次元、四次元で読む。
掘り下げ
- 書かれていない部分、戯曲が書かれた時代、国、登場人物の育ちなどの背景を読む。
- 書かれている所の前と先を読めなければ、表現した時に書かれているもの以上のものにはならない。
- 頭で理解し、それを感覚や肉体で表現していくのが稽古。
「演じる」 とは自己解放である
- 自己解放であるが、自己をさらけ出すことではない。自分の中にあるほんのちょっとの心をどれだけ増幅させて演じられるかである。
- 自分だったらありえない、と思って思考を止めないこと。
- 自分だったらどうするかということをまず考える。自分を通さないで、この役だったらこうだろうと考えるから嘘つきになる。
最後は役に対して腑に落ちるかどうかである
- 腑に落ちていないとただセリフを追うことになり、形だけになってしまう。
セリフとは
- 相手の心や体を動かすためにあるもの(安部公房)。
台本読み
雰囲気で読まない
- 戯曲を理解し、まず普通に読むこと。
- 素直に理解し、気持ちを追っていく。
- 情景・絵を読む、聞く。
上手くやろうとしない
- 必ず相手の声を聞く。
- 自分が決めたことを上手くできないといって悩むのではなく、相手の出方で変わることのできる余裕を持つこと。
間、テンポ
- テンポを上げたいときにもきちんとセリフを聞く。
- テンポを上げるとは、ただ早く喋るのではない。
心と声
- 心(役の心)と声(表現の部分)とは自然とつながるはず。
- 演出に応じて声だけを変えようとしても、根本的な理解がなければ嘘になってしまう。
役者であるということ
役者は生きていくことすべてが勉強
- 常にいろいろなアンテナをはっておく必要があり、このことが稽古への準備になる。
型は盗むもの
- 型を見て盗むのは当然のこと。
- 心はそれ以前に自分にあるもの、肉体と同じように感性も育てるもの。
演出家は演技指導者ではない
- 役者は演出・ダメの意味を理解し表現につなげなければならない。
『雪だるまの幻想』の役は2つの家族(原作の「少女」たちも演出上フェアリーの家族に見立てました)に分かれます。今回の一番良かった、皆が芝居で出せたことは、この両方の家族が、家族に見えたことです。そしてこの切ない話を決して暗く演じることなく、ピアノを含め前向きな作品にできたことです。技術の拙さは置いておいても、その思いはお客様に伝わったと思います。
みんな素敵でした。
今回の発表の後、打ち上げを兼ねた2部で何人かが歌の発表を行いました。その中でロック歌手のSACHIOは前回聴いた時より、何と格段の差で上手くなっていました。芝居の稽古をすることで、歌への表現が豊かになったのです。本人も自覚があり、「芝居の稽古をして分かったことが沢山ある、それが歌に出ていたとしたら、とっても嬉しい」と言っていました。芝居は表現の基礎になるもの、役者でなくても、自分の表現が豊かになることをSACHIOは立証してくれました。
そしてSACHIOだけでなく、12人の出演者はそれぞれに大きくなったように見えます。
これからの成長が楽しみです。
<2014年8月7日 加瀬玲子>
これは2014年のクリップです。終了した内容やリンク切れの場合はご容赦ください。